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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)12428号 判決

原告

北川滋子

被告

清水吉之助

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して、金一四万九一六五円及びこれに対する平成五年八月一三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その八を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、連帯して、金一三〇万六六八八円及びこれに対する平成五年八月一三日から支払い済みまで年五分の割合の金員を支払え。

第二事案の概要

普通乗用自動車と足踏式自転車が衝突し、足踏式自転車の運転者が傷害を負つた事故について、被害者から、普通乗用自動車の運転者に対し、民法七〇九条に基づき、運行供用者かつ右運転車の雇用者に対し、自賠法三条、民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

日時 平成五年八月一三日午後七時一五分頃

場所 大阪市淀川区西中島三丁目一一番一二号交差点上

加害車両 被告清水運転の普通乗用自動車(被告車両)

被害車両 原告運転の足踏式自転車(原告自転車)

態様 交通整理のされていない交差点(本件交差点)において、南から北へ直進していた被告車両と東から西へ直進していた原告自転車が衝突したもの

2  被告会社の責任について

被告会社は、被告車両の保有者である。

また、被告清水は、被告会社の従業員であつて、本件事故は、被告清水が、被告会社の業務執行中に発生したものである。

3  既払い

被告会社ないし被告加入の自賠責保険会社は、原告に対し、本件事故に関する損害の填補として、金三四万二四五二円を支払つた。

二  争点

1  被告清水の過失の有無及び過失相殺

(一) 原告主張

本件事故は、被告清水の前方不注視の過失によつて引き起こされたものであるから、被告清水には、民法七〇九条の責任、被告会社には、同法七一五条、自賠法三条の責任がある。

また、原告は、原告自転車を運転して、本件交差点に進入する際、一時停止して左右の安全を確認していること、原告自転車が交差点に先入していたこと、被告車両は、本件交差点の状況からして、かなりのスピードを出していたことからすると、本件事故は、専ら被店清水の過失によつて引き起こされたものであつて、原告には相殺されるべき過失はなく、あつたとしてもごく僅かである。

(二) 被告ら主張

被告らの責任は争う。

被告清水は、被告車両を運転して、本件交差点手前で徐行し、左右の安全を確認し、本件交差点を通過しようとしたところ、原告が原告自転車を運転し、日没後の降雨時で視界が悪いのに、無灯火で、道路中央を、本件交差点の通過車両の安全を確認することなく、一時停止規制があるのに、一時停止せず、被告車両直前に飛び出して来たため、被告清水が直ちに急ブレーキをかける等回避措置をとつたものの、及ばず、本件事故が発生したものである。したがつて、本件事故の過半の責任は原告にあり、八〇パーセントの過失相殺を求める。

また、仮に一時停止していたとしても、原告の過失は、四五パーセントを下回るものではない。

2  損害

(一) 原告主張

治療費(文書料を含む。)六万七八二一円、付添看護費一二万円(6000円×20)、入院雑費三万円(1500円×20)、入院中の近親者交通費六万〇四〇〇円(1510円×2×20)、本人の通院交通費九〇六〇円(1510円×2×3)、休業損害七万九四〇七円(有給休暇二日分を含む。)、衣服等の損害一九万円、慰謝料六〇万円、弁護士費用一五万円

(二) 被告ら主張

否認する。

第三争点に対する判断

一  被告らの責任及び原告の過失相殺(争点1)

1  本件事故の態様

(一) 甲二、原告及び被告清水各本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、南北に伸びるセンターラインのない、歩車道の区別があり、車道の幅員約四・二メートルの直線路と、東西に伸びるセンターラインのない幅員六メートルの歩車道の区別のない直線路が交わつた交差点であつて(本件交差点)、その概況は、別紙図面のとおりである。本件事故現場は市街地にあり、本件事故当時は夜間であつたが、照明によつて明るく、南側からは前方の見通しは良いものの右方の見通しは悪く、東側からは前方の見通しはよいものの左方の見通しは悪く、交通は頻繁であつた。本件事故現場附近の道路はアスフアルトによつて舗装されており、路面は平坦で、本件事故当時湿潤しており、南北道路は北行一方通行であつて、最高速度は時速二〇キロメートルに規制されていて、東西詰は、一時停止となつていた。本件交差点南東角の〈甲〉付近(以下、符号のみで示す。)には、駐車車両〈甲〉があつた。

被告清水は、タクシー運転手であるが、タクシーである被告車両を運転し、南北道路を、北行きに直進進行していたところ、本件交差点手前に至り、本件交差点東側から進入し、西に直進進行していた原告自転車を認め、急ブレーキをかけたものの及ばず、原告自転車後部に、自車前左部を衝突させ、原告を別紙図面〈ウ〉付近に転倒させた。

原告は、無灯火で、原告自転車を運転し、東西道路を西行きに直進進行していたところ、本件交差点進入前に停止し、南側を確認したが、被告車両を認めることができず、交差点に進入し、前記の態様で、被告車両と衝突し、転倒した。

(二) なお、被告清水は、原告自転車の速度は相当速く、直前で停止していたような速度ではなかつたと供述するものの、推測に過ぎず、その供述からは、原告自転車がまつたく一時停止しなかつたとまでは認定できない。また、原告は、その本人尋問において、停止線及び南北道路が見える位置の二箇所で一時停止した旨供述するものの、南北道路が十分見通せる位置で停止しながら、被告車両はまつたく認められなかつたとも供述し、その供述では、その見通しを妨げるべき駐車車両〈甲〉も記憶していないものであるから、南北道路が十分見通せる位置で停止したとする供述までは採用できない。

2  当裁判所の判断

右認定によると、被告清水は、前方不注視により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、被告会社は、民法七一五条、自賠法三条(人身損害に限る。)に基づき、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

しかし、原告にも、一時停止規制されている東西道路から南北道路に進入するに当たつて、一時停止はしたものの南側の安全確認が不十分であつた過失があるから、相応の過失相殺をすべきところ、前記の道路状況の他、原告車両が軽車両であるから、自動車に比べて保護されるべき車種であること、衝突位置が原告車両の後部であることからは、被告車両より、原告自転車が交差点に先入したと認められることを総合すると、原告の過失割合は、二五パーセントとするのが相当である(なお、無灯火の点は、付近が明るかつたことからして、過失割合を加算する事由とはしない。)。

二  損害(争点2)(円未満切り捨て)

1  治療費 六万七八二一円

甲三、四の1ないし6、八、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故によつて、頭部外傷(頸部挫創、頭部打撲)、外傷性頸部症候群、左側胸部打撲、左下腿打撲の傷害を負い、平成五年八月一三日から同年九月一日(二〇日間)淀川キリスト教病院に入院し、同年九月二日から同六年六月二八日まで(実通院日数三日)同病院で通院し、治療を受けたこと、その治療費(文書料も含む。)として、右額を要したことが認められる。

2  付添看護費 否定

近親者が、付き添つたとしても、病状等から付添を要した旨の診断書等の提出がなく、他に、この点を立証するに足りる証拠はないので、認められない。

3  入院雑費 二万六〇〇〇円

前記のとおり、原告は、本件事故に基づく傷害によつて、二〇日間の入院を余儀なくされたところ、一日当たりの入院雑費としては、一三〇〇円が相当であるから、左のとおりとなる。

1300円×20=2万6000円

4  近親者交通費 否定

近親者が、原告の入院の際見舞つたないし付き添つたとしても、本件事故に基づく損害というための事情の主張・立証がないから、それは親族の情愛の現われと解すべきであつて、認められない。

5  本人の交通費 五〇四〇円

前記認定のとおり、原告は、本件事故に基づく傷害によつて、三日間の通院を余儀なくされたところ、甲七によると、一日当たりの交通費は一六八〇円と認められるので、左のとおりとなる。

1680円×3=5040円

6  休業損害 六万六六二九円

甲五の1、2、原告本人尋問の結果によると、原告は、平成三年九月一日から、株式会社ワイ・デー・ケーに勤務し、平成四年分の給与収入は三〇三万三九〇八円であつて、本件事故当時、コンピユーターのソフト開発に携わつていたところ、本件事故による傷害により、平成五年八月一六日から同年一一月一九日までの五七日間休業し(有給休暇二日を含む。)、六万六六二九円減給したことが認められるので、その限度で休業損害として認める。

なお、有給休暇を二日分使用した点については、有給休暇が労働者の福祉のためのものであることからすると、慰謝料の増額要素として考慮するのが相当である。

7  衣服等の損害 五万円

甲九、検甲三、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故当時着用していた衣服に血痕が着く等して着ることができなくなつたこと、その他にも切られる等して無くなつた物があることは認められるものの、それらの購入価格を客観的に裏付けるものはなく、原告本人尋問の結果によつても、衣服以外の購入時期は明らかでないこと、原告の提出する甲九で記載されている価格も大まかなものに過ぎず、作成された日からして、正確な記憶があるとは考えられないこと、衣服以外のものについては、紛失を裏付ける証拠もないことからすると、右金額の範囲で相当と認める。

8  慰謝料 四〇万円

前記認定の傷害の程度、入通院経過、検甲一、二、原告本人尋問の結果によつて認められる、現在に至つても原告の頭部の本件事故によつて受傷した部分に毛が生えていないこと、有給休暇の使用を余儀なくされたことからすると、右額が相当である。

9  損害合計 六一万五四九〇円

三  過失相殺後の損害 四六万一六一七円

四  既払い控除後の損害 一一万九一六五円

三から、前記の既払い金三四万二四五二円を控除すると、右のとおりとなる。

五  弁護士費用 三万円

本訴の経過、認容額等に照らすと、右額をもつて相当と認める。

六  結語

よつて、原告の請求は、一四万九一六五円及びこれに対する不法行為の日である平成五年八月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

(別紙図面)

〈省略〉

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